「帰ってきた！」窓の外を通り過ぎるひそやかな足音に
六太は飛び起きた。
窓から差し込む白々とした光は
夜明けが近いことを物語っている。
足音は回廊を静かに遠ざかり
やがて
扉の向こうに消えた。
それを聞き届けて
六太はどさっと寝台に身を投げ出し
跳ね除けた毛布を手探りで引きかぶった。
「バカ殿め」
毒づきながら目を閉じた顔には
隠しようもない安堵が浮かんでいる。
即位して３００余年。
尚隆の「お忍び」と称する王宮を抜け出す行動は、
とがめだてするのが馬鹿馬鹿しいほど
既に日常的になっている。
自分も同じようなことをしてういる手前
慎めと言えた義理ではないのだが。
まして尚隆なら大抵の危険は切り抜けられると
知ってはいても。
それでも
尚隆が王宮に居ない夜の六太の眠りは浅い。
まちがっても尚隆に
そんなことを云う気はないけれど。
