これは"長閑猫"主催ネムさまへ１０周年お祝いで差し上げたものです。

　　
　タイトルは「春待ち」。
　泰麒の持ち帰った「春」を窓から見守る二人（冬栄）を想いながら描いてございます。
　ネムさまからとっても甘くてステキなお話を頂いちゃいました。ふふ。一緒に砂糖漬けになりましょう（笑。
　　

春の灯　 　 　 　宵闇に微かに漂う春の香。 　しんと冷えた冬の底に、春の欠片がそっと落ちてくるようー 「何を考えている」 　もたれていた頭の上から不意に問い掛けられ、李斎は小さく微笑む。 「春を…台輔が漣から持ち帰られたという春を感じておりました」 　今宵、久々に訪ずれた王が、睦言の合間にふと漏らした言葉を、李斎は満ち足りた想いで思い返す。 　 　冬の狩の間、昔ながらの側近でさえ「飢えた虎のよう」と評したように、誰も近付けないような気を驍宗は纏っていた。 　決して人としての気持ちを忘れていないことを、花影の件で李斎は知り安堵していたが、それでも自分でさえ仕事以外では 　遠ざけている驍宗を、李斎はどこか寂しく思っていた。 　ようやく冬狩が終わり、泰麒が漣国から帰って来ると、驍宗の気も春の雪解けのように和らぎ始め、密かな来訪の便りが 　李斎の元に届いたのだった。 　 「やはり台輔は主上の半身なのですね」 「どうした、急に」 　李斎は答えず、驍宗の肩から胸へ顔を埋める。 　泰麒が戻って来たことで、夏のように苛烈で冬のように峻厳な驍宗には、泰麒の柔らかさや暖かさが、どれだけ必要か 　改めて分かった気がする。 　その役割を担うのが自分ではないことが寂しいと、思わないと言えば嘘になる。それでもこの温もりに包まれていると、 　自分の命に代えても二人を守りたいと、李斎は心底思えてくるのだった。 　 「明日は二人で蒿里の宮へ行こう」 　李斎が不思議そうに顔を上げると、驍宗が笑って言う。 「庭に咲いた梅の花を三人で見たいそうだ。どうやらしばらく離れていたから、甘えたくなったらしい。私もだが」 　薄闇に浮かぶ驍宗の嬉しそうな表情に、李斎は小さく笑い声をたて、そっと自分の腕を傍らへ回した。 　 　長閑猫　ネムさま2019.3