「文張、ぶーんちょーっ。面会人だぞー」道場の外から鳴賢が呼んでいる。
楽俊はようやく扱い慣れてきた弓を置くと、
額に浮き出た汗を拭った。
「おいらに面会人？・・・あ。いつもの？」
「ちがう違う。あの生意気なガキじゃないよ。
別嬪さんだぜ」
「別嬪さん？」
首を傾げる楽俊の背中を、ひとつど突いて鳴賢が笑う。
「後かたづけはいいから、早く行ってやれよ」
”あの生意気なガキ”が自国の台輔だと知ったら、
鳴賢はどんな顔をするのだろう？
後々のため、あんまり邪険にしないように云っておこう
かなぁ、などど楽俊は生真面目にため息をついた。
中庭に面した回廊に佇む人影に、その緋色の髪に、楽俊は一瞬
いまは見えない”しっぽの先”まで固まった。
えええ、まさかっ？
「楽俊っ」
気配に振り向いた人影は、そんな彼の背中に頓着なく抱きつく。
「よ、陽子ぉ？？？」
慌てる楽俊の背中に顔を埋めて、陽子はくすくす笑う。
「ひさしぶり！・・・また怒られそうだね、慎みがないって」
でも、と陽子は顔を上げた。
「楽俊、・・・なんだか、たくましくなったような気がするけど」
「ああ、そうかもな。最近、弓射と乗馬でしごかれてるから」
「しごかれて？」
「そう、えーっと風漢・・・さま、に」
「風漢さま？」
「あれだ、あれ。ほらえーっと、小松尚隆・・・さま」
心底困ったような楽俊に、陽子は吹き出した。
「ああ、そういうことなのか」
「陽子は？」
「うん、相変わらず。
今日は六太君につれてきてもらったんだ。とんぼ返りだけどね」
