おれさ。
上手く云えないんだけど、おまえに逢えて良かったと思うよ。
あ？
おれがこういうこと云うの、そんなに変か？
この前祇園社に行ったとき、おまえといろいろ話しただろ？
あれでずいぶん楽になった。
・・・笑うなよ。ま、いいけど。
　
　
あんときも話したけど、小さい頃に大火事があったんだ。
そん時に貴族の汚さをイヤっていうほど見ちまって、
それで一緒に育った勝真さえ信じられなくなって、ずっと話もしてなかった。
　
ホントは気がついてたんだと思う。
おれ達庶民にだって汚いヤツはいるし、貴族にだっていいヤツは
いるだろうってことは。
・・・でも、きっと楽だったんだ。
貴族は汚くて、ツライのは全部奴らのせいだって思うことが。
　
おまえと話してて、気が付いたんだ。
おれのこの歯がゆさや抑えきれない怒りは、貴族に対してのものじゃない。
この境遇を仕方ないとあきらめたふりをしていた自分自身が
歯痒くて腹立たしかったんだ。
おまえが慣れないこの場所で、あきらめずにがんばってるように
おれにもきっとなにかできるはずなんだ。
　
だからさ。
がんばろうな。おまえがちゃんと帰れるように。
あ？なんだよ？おい、泣くなよ。
・・・・ちぇ、おんなって、わけわかんねーよ。