「悪かったな、こんな遠くまで連れ出して」
秋のまま足踏みしている季節の中で怨霊と格闘する日々。
ふと漏らしたため息を拾ってくれたのは勝真さんだった。
　
馬に乗せられて、ずいぶん遠くまで来たみたいだけど。
「ここは？」
馬の手綱を立枯れの木に結びなから、彼は背中で応えた。
「・・・俺が独りになりたいときに来る所、さ」
空と、湖と。
――たったそれだけの風景。　　　
ここには人の手がつくった物はなにもない。
　
ふ、と振り返って勝真さんは、まっすぐ私の瞳をのぞき込む。
「おまえ一生懸命なのは判るけど、全部自分で
背負い込むなよ？」
真摯なその眼差しに、鼓動が跳ね上がった。
「ここの空は広いだろ？・・・この空を見てると思えるんだ。
足下のちっぽけなことで悩むのはよそう、って」
照れくさそうに彼は笑った。
「なーんてな。
悩むのよそうったって、またすぐ悩んじまうけどな、俺も」
つられて笑った私に、彼は云ってくれた。
「独りで悩むなよ。俺がずっと側に居るから。
できることなら何でもやってやる。必要なら命もやるから。
・・・おまえがそうして笑ってくれるなら」
龍神の神子と呼ばれて、いつしか気負っていた私の背中を、
優しく支えてくれる彼の暖かさを、私は初めて実感した。
「ありがとう・・・勝真さん」