耳元で風が鳴る。幾筋かの髪が風に散った。
　けして侮ったわけではないが、この敵は意外にしたたかだった。
　
　「泰明さんっ！」
　悲鳴のような神子の声が、かえって泰明を冷静にする。
　風に刻まれた傷はごく浅い。
　こんなものは痛みのうちには入らない。
　・・・そう、神子を失うことに比べれば。

　またひとしきり怨霊の繰る風が吹き荒れ、紐の切れた念珠が飛び散った。
　裂帛の気合いとともに、泰明は怨霊に念をあてる。
　それは指先から真白な閃光となって迸り、怨霊を打ち砕いた。




　「―神子、終わった」
　解けた髪をうるさげに振り払い、泰明は振り返る。
　彼の衣服はあちこちが裂け、傷口からは血潮が滴っている。
　「泰明さん、けがを・・」
　泰明は駆け寄る神子を見つめ、不意に表情を柔らげた。
　微笑と辛うじていえる程度の、薄い笑みではあったが。

　「―――おまえが、無事でよかった」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
タイトルは「戦う陰陽師」（笑）
以前モノクロでＵＰしたモノに着彩して再ＵＰです。
モノクロの時にはなかった怪我がちょっと痛そうかも。